「上手くいった時でも、上手くいかなかった時でも、常にそこから、さらに何かできないか」と考える指導を!
■「もう一歩のつっこんだ指導」で特別支援教育は変わる
著者は、特別支援教育を牽引する若手リーダー。20代で発達障害の子と出会い、自分の指導を根本的に見直す必要に迫られ、多くのドクター・専門家と共同研究を進め、医学的・脳科学的な裏付けをもとにした指導を行ってきた小学校の先生である。
特別支援教育の研修やセミナーで、発達障害の子への対応について話す機会が多い著者のもとには、次のような声が多く寄せられるという。
「先生と同じように指導をしていても、なかなか同じような結果が出ない」
「以前も指導したことが、子どもたちに定着しない」
確かに、一見すると、著者と同じような指導をしているように見える。しかし、よくやりとりを聞いていると、次の点が異なるのだという。
①大切なところはそこではない。さらっと流している“ここ”を押さえておかないと、子どもは変わらない。
②そこで終わってしまったら、この指導はこの事例でしか使えない。次につながるように、他の同じような場面でも使えるように、もう少し指導しておく。
悩みを打ち明ける先生方はみな熱心であり、その指導はいずれも間違ってはいない。しかし、それだけでは効果が薄い、と著者は言う。そして、そのほんの少しの足りない部分を、「もう一歩のつっこんだ指導」と呼ぶ。その「もう一歩のつっこんだ指導で特別支援教育は変わる」という視点でまとめられたのが本書である。
例えば、失敗をなかなか受け入れられない子がいたとする。その子が、五色百人一首で負けたのに我慢してキレなかった。この子の成長にとって素晴らしい出来事である。
では、この時の「もう一歩のつっこんだ指導」とは、何か?
①まず、この子を呼んで褒める。あるいは、みんなの前で褒めるという方法もある。
②さらに、連絡帳に書いて保護者に伝える。
①は普通、②も良い教師なら行っている対応であり、ここまでは一般的だと著者は言う。
著者は、ここでさらにもう一歩突っ込んで考える。例えば、
①次の日に連絡帳を見ながら、もう一度褒める。
これは効果がある。前の日の出来事が、次の日にもつながってくるのである。もし、保護者からの返事があれば、それも本人の前で読んであげる。
ここまでで、どれだけその子が褒められたことになるだろうか。
①呼んで褒められる
②連絡帳に書いて褒められる
③家で保護者に褒められる
④学校で翌日、連絡帳を見ながら褒められる
実に、4回にわたって褒められたことになる。
そして、次にまた、五色百人一首を始める前に、思い出したかのように「そういえば、この前の百人一首の時は、負けても我慢して凄かったね」と褒める。
「負けたのに我慢した」という事実をその場で終わらせるのか、それとも4回、5回にわたって褒めるように仕掛けるのか。これで、子どものその後が大きく変わってくる。
しかし、著者の取り組みは、ここでは終わらない。さらに突っ込んで、次のような声かけで、今後のその子の姿を変容させる手立てを行うのである。
連絡帳に書いて褒めた時には、時々思い出したように連絡帳をめくって、そのページを見ながら褒めるのである。
■子どもの見え方が変わってくる
何か指導した時に、そこで終わるのではなく、そこからもう一歩突っ込んで考えてみること──。著者は、上手くいった時でも、上手くいかなかった時でも、常にそこから何かできないかと考えることが癖になっているという。そしてそうすると、子どもの見え方が変わってくるのだ、と。大変な子に対応しても、イライラしなくなる。「昨日のイライラ」と「今日のイライラ」とが違って見えるようになるのである。
それは著者自身、指導のたびに、もう一歩突っ込んで考えてみるようになってからのことだという。
上手くいかなかった時は、その場でノートに経過を書く。自分が言ったこと、子どもの反応、自分の感情など、思いつくまま書き続ける。そのことで、まず自分が冷静になれる。自分がかっかしていてはダメ。見えるものも見えなくなってしまう。
そして、書いていくうちに、子どもがイライラした分岐点がはっきりわかるようになった。また、その前のいくつかの要因も浮き上がってくるようになる。そうなると、次の同じような場面で、自分の指導を変えることができるのである。
また、上手くいった時も大切だという。上手くいったということは、そうなる要因があるはずなのだ。それがわかれば、次から意図的に指導が行うことができるようになる。
そうやってできあがったのが、著者の言う「もう一歩の詰めの指導」である。
「こういう時にはこう指導する」という内容の本は多い。しかし本書には、「指導のポイントを掘り下げる」「もう一つの指導を組み合わせる」という、今までにない内容が盛り込まれている。
本書は、著者の手になる、シリーズ「トラブルをドラマに変えてゆく教師の仕事術」の第1巻『発達障がいの子がいるから素晴らしいクラスができる』の続編である。同書は、「この子はどうしようもない」と言われた子が次々に変化していった記録を中心に執筆されたものである。
そして本書は、
「具体的な手法をもっと細かく教えてほしい」
「若い先生たちへの研修ができるような本にしてほしい」
という先生方からの多くの声に応え、「どのような手立て」を「どのような手順で行う」ことが大切なのか、「この指導のポイントはどこなのか」という視点でまとめられている。
また、特別支援教育の中で、多くの先生方の悩みといえば、「教室の荒れ」「いじめ」「トラブル」である。それを「予防」と「対応」の視点、そして具体的な指導場面を取り上げて独立した1冊としてまとめた姉妹編が『喧嘩・荒れ とっておきの学級トラブル対処法』である。
併せて読んでいただくとさらに理解が深まり、指導が「一本の線」のようにつながっていく。
指導に悩んでいる、多くの熱心な先生方の力になる2冊。
トラブルをドラマに変えてゆく教師の仕事術 著者:小野隆行
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その指導のどこが足りないか。子供が変わる指導ポイントを紹介。
間違えたことをした時の謝り方、給食の片づけ方、掃除の工夫、等々。
「ここ」を押さえると子供が変わるという指導ポイントを伝える。
■著者紹介
1972年生まれ。香川大学教育学部卒。現在、岡山市立芥子山小学校に勤務。
新卒で向山洋一氏の実践に出会い、
授業を追試することで目の前の子どもたちが変わることを実感する。
27歳で師匠である甲本卓司氏に出会い、
甲本氏を代表とするTOSS岡山サークルMAKの立ち上げに関わる。
現在はTOSS岡山代表も務める。20代で発達障害の子と出会い、
自分の指導を根本的に見直す必要に迫られ、多くのドクター・専門家と共同研究を進め、
医学的・脳科学的な裏付けをもとにした指導を行うようになる。
同時に、毎年、学校で一番指導が困難な児童の指導にあたり、
発達障害の子を集団の中でどのように指導していくか、
学級全体をどのように組織していくかを研究テーマにした実践を10年以上続ける。
現在は、特別支援学級の担任を務める。
また特別支援教育コーディネーターとして校内の組織作り・研修体制作りなどにも関わり、
毎年20近くの校内研修・公開講座で講演。
NPO主催のセミナーでも多数講師を務め、指導的役割を担う。
著書に『トラブルをドラマに変えてゆく教師の仕事術──発達障がいの子がいるから素晴らしいクラスができる!』(学芸みらい社)がある。
■目次
まえがき
第1章 失敗を失敗で終わらせない学級経営、もう一歩の詰め
1 失敗を失敗で終わらせない
2 対応面のシステムを作る
3 失敗がいけないのではない
4 正しいことを頭で理解しても、行動に移せない理由
第2章 落ち着かない学級をみんなが快適な学級に変える方法
1 教師のちょっとした詰めで当番活動は活性化する
2 朝の会を安定させる、プラスαのアレンジ
3 どの子も安心の給食指導で成功体験を積ませる
4 遠足や社会科見学でも応用ができる教室清掃のシステム
5 掃除を真面目にやらない子どもへの指導方法
第3章 黄金の三日間の過ごし方、もう一歩の詰め
1 周りの子どもとその子自身のレッテルをはがす
2 楽しく全体を統率する
3 認められる場面を意図的に作り出し、周りの子どもも納得させる
4 学級で大切な行動を意図的に体験させる
5 失敗した時にどうするかが大切だと伝える
6 個別評定で集団を正しい方向へ動かす
7 最初の体育では必ずケンパを行う
第4章 指示したことは必ずやらせることが教師の仕事
1 指示したことは絶対にやらせる
2 指示通りではない場合はやり直しをさせる
3 子どもに媚びない
4 自分の言葉に責任をもつ
5 高学年女子にとってしつこいのはNG
第5章 がんばっている子が得をするから、いいクラスになる
1 「がんばっている子が得をする」状態を作る
2 待たないから行動が早くなる
3 子どもがどう感じているのかを知る
第6章 役割を与え、成功させることが教師の仕事
1 成功体験で努力は報われるという認識をもたせる
2 成功体験をもたせるには順番がある
3 役割を与えることで子どもは変わる
あとがき