喧嘩をおさめるその指導、実は「NG」です!
■教室の荒れは、なぜ起きるのか?
著者は、特別支援教育を牽引する若手リーダー。20代で発達障害の子と出会い、自分の指導を根本的に見直す必要に迫られ、多くのドクター・専門家と共同研究を進め、医学的・脳科学的な裏付けをもとにした指導を行ってきた小学校の先生である。
特別支援教育について大がかりなアンケートを行い、その時の結果が強く印象に残っているという。
「教室で困っていることは何ですか?」という問いに対し、圧倒的に多かった答えは、「子どもの暴言、暴力、トラブル」といった内容だった。しかも、これは若い教師だけに限らず、ベテラン教師でも同じような結果だった。
教室の荒れは、なぜ起きるのか?
著者は、その原因の1つに、システムの問題があるという。
例えば「朝の会」のプログラム。これは、学級独自で決めればよいものである。しかし近年では学年単位で統一したり、学校単位で統一したりしているところもある。これが上手く回っていればいいが、子どもの状態によっては、当然、上手くいかないことがある。その時に問題なのは、「子どもの状態がよくない時でも、決まったプログラムを変更できない」ことである。
著者がかつて、特別支援を要する子が10名近いクラスを担任した時のこと。学年で統一していたプログラムではどうしても騒がしくなるため、学年の先生に相談して内容を変えたのだという。その結果、子どもたちの動きがとてもスムーズになり、驚くほど順調に朝の時間を過ごすことができるようになった。
同じ朝の会でも、「どのような方法で」「どのような順番で」「どれだけ行うか」というシステムを変えることで、子どもたちの姿は大きく変化するのである。著者この出来事から、効果的なシステムを採用することは、荒れの予防につながることがわかり、それは個々への対応よりも大きな効果をあげることを確信する。そしてそれは、特別支援学級でも同じだという。
本書では、どのようなシステムが必要なのかという幾つもの視点が紹介されている。
また、荒れの原因には、「子どもたちへの対応」が上手くいかないことがあげられる。子ども同士のトラブルが起こった時、どのように解決するのか。このような具体的な対応は、教員養成の学部がある大学でも、まず教えてくれない。だから、ほとんどの教師は自分の経験でのみ対応しているのが現状である。
教師の対応で、さらにひどくなったというケースが後をたたないのは、このためである。
■1時間で8回の喧嘩が起こるクラスで
本書には、特別支援を要する子の特性をふまえたトラブル指導「喧嘩両成敗」が収録されている。実際の講座でのテープ起こしであり、手順だけでなく、具体的な指導言も完全に収録。特別支援の観点から「学級の荒れ」「トラブル」そして、「いじめ」への対応策を、できるだけ具体的な形で紹介している。
著者は、喧嘩の仲裁が得意だという。そしてそれは、おそらく他の多くの先生方より、仲裁の機会が多かったからだと思う、と。
実際、著者は20代の頃から、荒れたクラスや指導困難と言われたクラスをみずから希望して担任してきた。当然、喧嘩やトラブルが続出する。それをその都度、指導して収めてきた。本書にはその経験が生きている。
前述の、特別支援を要する子が10名近くいるクラスを担任した時には、あまりにも喧嘩が起きるので、喧嘩の数をカウントしてみたところ、なんと8回も喧嘩が起こっていた。ちなみに、これは「1日」の数ではない。「1時間」の勉強時間の間で起きた喧嘩の数である!
著者はそれを、喧嘩のたびに子どもたちを呼んで指導する。さすがに1時間たつと、体はへとへとになる。通常なら、なんでこんなに喧嘩ばっかり起こるんだろうと悩むところだが、著者はそうは思わなかったという。喧嘩の仲裁をしていて、だんだんと短い時間であっさりと解決できるようになっていることに気がついたのだ、と。
回数を重ねることで、コツらしきものがつかめてきたのだ。また、前回よりも次の時、さらに次の時と、だんだんと指導時間が短くなっていることにも気がついたという。このことを発見した時の喜びは今も覚えていて、「なんだか楽しくてしょうがない気持ちになった」と。
喧嘩が起こって楽しい気持ちになるとは、以前には想像もできなかったという著者だが、このように思えるようになってから、シンプルに喧嘩というものをとらえることができるようになったという。
喧嘩というのは、お互いの主張が食い違っていて、それぞれの「しこり」が解消できていない状態である。つまり、それぞれがこだわっている「しこり」を解消してあげればいいのだ、と。そしてそう考えると、今までの指導はその正反対のことをしていることに気がついたという。
「あなたが悪いと教師が決めつけること」
「長く話を聞くこと」
「もうしませんと約束させること」
これら全てが、NG指導なのである。これらは指導が上手くいかないどころか、その後の子どもの関係にもマイナスの影響を与えることをはっきりと確信できた、と。
そこから、喧嘩両成敗という方法が生まれるようになる。多くの実践を通して生まれた方法であるから、全ての教師の言葉、対応に意味がある。そして慣れてくれば、この子どもの「しこり」が薄らいでいく瞬間が見えるようになっていく。この喧嘩両成敗の方法を使いこなせるようになってから、学級経営も大きり、特別支援学級を担任した時にも、この方法は抜群の効果を発揮したという。自閉症スペクトラムでこだわりが強い子が素直に反省して謝ることができ、そこからその子は変わっていったのである。
本書は、著者の『発達障がいの子がいるから素晴らしいクラスができる』の続編。本書は「荒れ」「トラブル」「いじめ」の指導についてまとめられたものだが、「指導のポイント」や「その指導のどこが足りないのか」ということに焦点をあててまとめられている『特別支援教育が変わるもう一歩の詰め』は、本書と対をなす姉妹作である。この2冊を併せて読んでいくと、「指導の軸」が1本につながっていることが理解できる。
学校現場に、若い教師がどんどん増えてきた。その傾向はこれからも続く。「荒れ」「トラブル」「いじめ」といった問題は、まずます学校現場でクローズアップされていくだろう。
その解決策の一助となるのが本書である。
トラブルをドラマに変えてゆく教師の仕事術 著者:小野隆行
|
■全国の書店・ネット書店でご購入いただけます。
Amazon
e-hon 全国書店ネットワーク
教室が荒れるのはなぜか。規律のある学級作りのポイントを紹介。
全員が揃うのを待つのはダメ、怒鳴り声は子供の脳に異変を起こす、等々。荒れた教室を整え、規律のある学級を作るポイントを伝える。
■著者紹介
1972年生まれ。香川大学教育学部卒。現在、岡山市立芥子山小学校に勤務。
新卒で向山洋一氏の実践に出会い、
授業を追試することで目の前の子どもたちが変わることを実感する。
27歳で師匠である甲本卓司氏に出会い、
甲本氏を代表とするTOSS岡山サークルMAKの立ち上げに関わる。
現在はTOSS岡山代表も務める。20代で発達障害の子と出会い、
自分の指導を根本的に見直す必要に迫られ、多くのドクター・専門家と共同研究を進め、
医学的・脳科学的な裏付けをもとにした指導を行うようになる。
同時に、毎年、学校で一番指導が困難な児童の指導にあたり、
発達障害の子を集団の中でどのように指導していくか、
学級全体をどのように組織していくかを研究テーマにした実践を10年以上続ける。
現在は、特別支援学級の担任を務める。
また特別支援教育コーディネーターとして校内の組織作り・研修体制作りなどにも関わり、
毎年20近くの校内研修・公開講座で講演。
NPO主催のセミナーでも多数講師を務め、指導的役割を担う。
著書に『トラブルをドラマに変えてゆく教師の仕事術──発達障がいの子がいるから素晴らしいクラスができる!』(学芸みらい社)がある。
■目次
まえがき
第1章 規律ある学級作りの方策
1 規律は授業で作る
2 プール開きは最初が要
3 討論のできるクラスを作る
4 教室をきれいにする
5 遠足のゴミ拾いで二〇〇名が熱中する
6 必ず約束を守る
第2章 荒れた学級を担任した時の方策
1 学級開きで統率する
2 話が聞けないのは誰の責任か
3 シーンとした状態を作る
4 待たないから集中する
5 教師の言葉に責任をもつ
6 隙を作らない
7 鈍感さをなくす
第3章 よくないことをした時の叱り方・褒め方の新基準
1 叱る基準と褒める基準は同じ
2 「叱る三原則」の意味
3 怒鳴ることは脳科学を無視した指導法
4 集団の中で褒めるから、規範意識が生まれる
5 向山氏の叱り方から学び、怒鳴る指導をなくす
第4章 叱られた子どもの自尊心があがる、実録・喧嘩両成敗
1 子どもの話を聞く時の定石
2 喧嘩を止める時の声
3 喧嘩のいきさつを聞く
4 自分のしたことに点数をつけさせる
5 もう一歩の指導が学習効果を生む
第5章 特別支援の子どもをいじめの被害者にも加害者にもしないための方策
1 いじめにつながる交換ノートをどう禁止するか
2 保護者の信頼を得るいじめの対応
3 トラブルをいじめにつなげないためのもう一歩の詰め
4 力のある資料でいじめの芽を摘む授業をする
5 教師の態度は、子どもが真似をする
第6章 特別支援の子どもが安定する、規律ある教室を創る環境整備
1 教室環境編(1)派手な前面掲示は害にしかならない
2 教室環境編(2)みんなを納得させて気になる子どもの座席を前にする
3 文房具編(1)忘れ物指導で、叱られる要因を取り除く
4 文房具編(2)学習をスムーズに進めるにはNG文具を使わせない
5 学習以前の準備編
あとがき